トップアイドルT.K | ショートショートはいかがですか?

トップアイドルT.K

俺はT.K。25歳。

今やこの国で俺のことを知らない人はいない。

そう。俺は誰もが羨むスーパースターだ。








街を歩くギャル達はもちろん、九九を覚える小学生の女の子から、

年金の計算をしている婆さんまで、女という女はみんな俺の虜さ。










15歳でデビューしてから10年。

ここまでのぼりつめる道のりは実に長かった。

歌、ドラマ、映画、モデル、本、CM、舞台・・・。

やれること全てをこの歳にしてこなした。












しかし、俺の野望はまだまだ終わらない。

いよいよ海外進出への兆しが見えてきた。

ついにハリウッドからオファーが来たのだ。

この時のために俺は5年間も駅前に留学したんだ。
















今俺は楽屋にいる。

おそらく今日はこの国で最後の仕事になるだろう。

クライアントは株式会社S

そう。清涼飲料で有名なあの会社だ。

そのS社が新商品を発売するということで俺にCM出演をオファーしてきた。

俺はもう世界へ羽ばたく人間だからと一度断ったんだが、どうしても

というものだからしょうがなく出てやることにした。

ま、額が額だけだったしな。

その編のB級タレントと一緒にしてもらっちゃ困る。

俺はA、いや、級タレントなんだからさ。













何度も言うが俺は流行の発信源。

俺が右といえば国が右を向く。

俺が着たブランドの服はたちまちプレミアがつく。

俺が宣伝した商品はすぐさまソールドアウトだ。














ふっ。俺は何て罪な男なんだ。

今日もまた1つ流行を作ることになるな。

































10年が経った。








































時の流れほど恐ろしいものはない。

あのころの人気はどこへ行ってしまったのだろうか。

俺の後をつけまわしていたギャル達は今やおばちゃんになっていて、

隣国の俳優に夢中になっている。

華やかなギャルとなった当時の小学生の女の子達には顔を見て笑わ

れるしまつ。

年金の計算をしていた婆さん達はとっくのとんまにあの世へ行っち

まった。















俺はあの日と同じ楽屋にいた。

鏡に映る自分の顔を見る。












また1つが増えた気がする。

あの頃に戻りたい。

若さが欲しい。















しかし、俺もまだ35歳。

男は30過ぎてからって言うじゃないか。













しかも、今日はCM撮影の仕事。

運命のいたずらか、クライアントは10年前に出た株式会社Sだ。

本当あの時謙虚に出演しといてよかったぜ。

















あのあとS社の新商品は大ヒット。一大ブームを巻き起こした。

それもすべて当時の俺のおかげ。

だから、S社は俺にオフォーを出すのは当然。

むしろ、お釣りが来てもおかしくないくらいじゃないか。
















































トントンッ!!


ドアがノックされた。ADが入ってくる。






































































































株式会社Sさん。


そろそろ出番なのでスタンバイお願いします」














「あ、はい。今日はよろしくお願いします」

俺は深々と頭を下げる。







ちくしょう。悔しい。

球団や会場が名前を売る時代はとっくに通り越した。

今は芸名まで買収される時代になっちまった。



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